アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは
慢性的に皮膚のかゆみが強く湿疹を繰り返します。患者さんの多くは、“アトピー素因”を持っています。
アトピー素因とは、アレルギーを起こす物質(アレルゲン)に対して、反応しやすい体質のことです。また、正常な皮膚には“バリア機能”が備わっています。
これにより、外からの刺激から肌を守っています。このバリア機能が低下し、アレルゲンが侵入しやすくなっている状態(ドライスキン)もアトピー性皮膚炎の発症につながります。
このような遺伝的な体質に、乾燥した環境や、汗をかくこと、ひっかいて傷をつけたりすること、心的ストレスなどが、さらに誘因となるのです。
アレルゲンには、ダニ・ハウスダスト・カビ・植物の花粉などがあります。血液検査によって、自分のアレルギーの有無を知ることは、生活の上でも、大切なことです。
アトピー性皮膚炎の治療
外用療法
副作用が心配で、使用を拒む方もいますが、正しい使い方をすれば、副作用(皮膚が薄くなる、毛細血管が拡張する、感染しやすくなるなど)が出る危険性は低いと言えます。皮膚科医の指導のもと、正しく使用して下さい。
免疫抑制剤(タクロリムス) ・・・臓器移植後の患者さんが内服する免疫抑制剤を塗り薬にしたものです。日本生まれですが世界75か国以上で承認されています。中程度の抗炎症効果があり、皮膚が萎縮しにくいことが最大の利点です。塗った直後、一時的に皮膚の刺激感が出るのが特徴ですが、1週間程度で収まってくるので小範囲から塗り始め徐々に慣らしていくことが肝要です。またヘルペス、ニキビなど皮膚感染症を誘発あるいは悪化させることがあります。
JAK阻害剤(コレクチム) ・・・これも日本生まれです。免疫細胞内の情報伝達経路であるヤヌスキナーゼ(JAK)をブロックすることで中程度の抗炎症効果を発揮する塗り薬です。朝晩2回外用しますが、長期外用により顔面の暗赤色の色調(アトピーの赤ら顔)が軽減する可能性があります。なお若干の刺激感と毛包炎やニキビなどが誘発される場合があります。
PDE4阻害剤(モイゼルト)・・・免疫細胞内のPDE(ホスホジエステラーゼ)4をブロックすることで、中程度の抗炎症効果を発揮します。朝晩2回外用します。
タクロリムス、コレクチム、モイゼルトはステロイド外用剤で強い炎症が軽減した後、再燃を抑制する目的での外用が効果的です。いずれも皮膚の萎縮や血管の拡張などのステロイドに伴う副作用がほぼみられないことが最大のメリットと考えられます。
AhR調整薬(ブイタマー)・・・免疫細胞内の芳香族炭化水素受容体(AhR)に結合して抗炎症効果を発現させます。効果が出るまで4週間から8週間かかりますが外用回数は1回/日でよいこと、クリーム基材で塗りやすくなっています。副作用として頭痛が10%程度にみられますが、3日程度で消退するとされています。
内服療法
注射製剤
デュピクセント・・・インターロイキン(IL)-4受容体およびIL-13受容体を構成しているIL-4受容体αサブユニットに結合し、そのシグナル伝達をブロックする遺伝子組み換えヒトIgG4モノクローナル抗体です。最初は2本、以後は2週間に1本ずつ皮下注射します。極めて優れた効果を持ち、早ければ数日でかゆみが半減し、継続することで肌の質感も改善されてきます。短期的な副作用としては軽度の結膜炎等がありますが長期的な副作用については今後症例の集積が必要となる新薬です。この薬剤も極めて高価で、1本が約5万3千円です。3割負担者の場合で月2本注射すれば約3万円の薬剤費となります。
アドトラーザ・・・2023年9月に認可された遺伝子組み換え抗体製剤です。IL-13に結合して、IL-13受容体α1鎖およびα2鎖とIL-13との結合をブロックします。臨床効果としてはデュピクセントと同等の効果が期待されており、IL-4をブロックしないためリンパ組織等への影響が少ない可能性が考えられます。なお投与方法についてはデュピクセントと同等ですが、薬価は約4万2千円とデュピクセントより低薬価となっています。
イブグリース・・・2024年5月に認可された製剤で、IL-13に結合しますがIL-13受容体α1鎖とIL-4受容体αのヘテロ二量体化をブロックします。IL-4をブロックしないことがデュピクセントとの違いで、IL-13受容体α2鎖をブロックしないことがアドトラーザとの違いです。デュピクセントと同等の効果が期待され、経過により注射の間隔を4週間に伸ばします。
スキンケア
入浴について
入浴の際のポイントは2点。
まず、体を洗う時にナイロンタオルを使用しないこと(綿などのタオルを使う)、次に浴槽に入ること、この2つを励行いただきたいと思います。
ナイロンタオルは泡立ちが良く、汚れもしっかり取れる気がしますが、必要以上に皮膚の角質を傷つける可能性があります。したがって一般の皮膚科医はナイロンタオルをお勧めしないのです。綿などの柔らかいタオルで優しく洗い、皮膚を傷つけないことを心がけましょう。
一方、湯船に入ることにより角質への水分貯留(保湿効果)が期待できます。また、温熱負荷がかかりますので発汗が促され、皮膚の新陳代謝が賦活化されます。季節の変化などにも皮膚が対応できるようになり、その結果かゆみや湿疹が起きにくくなると考えています。
アトピー性皮膚炎 春の対策
注意するポイントは、花粉、寒暖差、乾燥と発汗です。
広島市内では2月からスギなどの花粉が飛散していますが、花粉刺激によりマブタなど顔面に皮膚炎が出ることがあります。花粉の多い日には早めに洗顔やシャワーなどで洗い流しましょう。女性に多い傾向があり、化粧はしっかり、保湿もたっぷり、を心掛けてください。予防が第一ですが治療にはタクロリムス軟膏やマブタ用ステロイド外用薬を用います。なおハンノキ、シラカバなどブナ目花粉に感作されている場合、バラ科(リンゴ、モモ、イチゴなど)やウリ科(メロン、スイカなど)の果物に対して口腔アレルギー症候群が出ることがあり、ブナ目花粉が飛散する1月から5月くらいまで抗アレルギー剤の内服が効果的です。
一方、今年は冬でも寒暖差が大きく、雪が積もり路面の凍結した日もあれば寒気の緩んだ穏やかな日もありました。3月以降強い寒気は減るでしょうが、日々の寒暖差、週の寒暖差が大きいのが春の特徴です。この気温変動により皮膚の知覚過敏が増悪することがあります。抗アレルギー剤の内服、ステロイド外用の多めの使用で増悪をしのぎましょう。
さらにゴールデンウイークの頃から気温が上がり、汗をかきやすくなります。汗でアトピーは悪化することがありますが、汗の良い面も理解されるようになってきました。汗に含まれる抗菌ペプチドや免疫グロブリンは皮膚の善玉菌である常在菌を守り、有害な病原菌の侵入を防ぐという働きがあります。また保湿とPH調節に大切な尿素や乳酸等も含んでおり、汗を上手にかくことは丈夫な皮膚を造ることにつながるのです。汗を避ける生活習慣等から発汗機能が低下していくケースもありますが、アトピー克服のために汗をかく体に戻しましょう。とは言え、当面のかゆみがひどい場合には、濡らしたタオルやシャワーなどで軽く流すよう工夫もしましょう。
アトピー性皮膚炎 梅雨の対策
梅雨は汗と湿度に注意です。
発汗は大切な生理機能です。汗の中には保湿成分や抗菌成分があるので、体の恒常性を維持するためにも健康的な汗をしっかりかくことは大事です。一方で、汗はかゆみの増悪因子となることがあります。汗でかゆみを感じる場合には、タオル等でこまめに汗を拭き、可能であれば水等で洗いましょう。
またアトピー性皮膚炎では汗をかきにくい人(汗が体表に到達できない場合や、汗腺機能自体が低下している場合があるようです)がいます。
うつ熱傾向になるため熱中症に注意してくだい。外用剤について一言。軟膏の基材は梅雨にはべたつき感が生じ、そのため毛疱炎やニキビがおきることがあります。皮膚の状態に応じてクリームやローションへの変更が有効な場合があります。
アトピー性皮膚炎 夏の対策
夏は汗と紫外線に注意しましょう。
発汗は大切な生理機能で、汗に含まれる保湿成分や抗菌成分などが皮膚の健康維持に役立ちます。しかしアトピーでは体表への汗排出が滞り、うつ熱やかゆみが出ることがあります。半身浴や適度な運動によりスムーズな発汗を促すことが重要ですが、その時かゆみを強く感じる場合には保冷剤等でクーリング、タオルで優しく拭き取る、水洗、帰宅後早めの入浴、シャワーなどを心がけましょう。なお汗拭きシートでかぶれることがありますのでご注意ください。外用剤ですが軟膏剤はべたつき感が生じ、あせもや毛疱炎などがおきることがあります。また保湿剤についても使い過ぎるy必要はない季節ですので適度な保湿を心掛けてください。
また紫外線により過敏反応(かゆみや赤み)が出る場合には、紫外線をなるべく避け、肌に合う遮光剤を塗布する、などの対策をしましょう。
アトピー性皮膚炎 秋の対策
秋に気をつけるポイントは、まず気候の変化です。晩秋にかけては日内あるいは週内での気温差が大きくなり、大気も徐々に乾燥しますが、寒暖による痒みには抗アレルギー剤が有効な場合があります。乾燥に対しては保湿を主体としたスキンケアを、ステロイド等の外用薬はローション基材では乾燥が改善しにくい場合があるため軟膏基材が有用です。
室内のダニ抗原量は8月から10月にかけてピークとなりますので、掃除や布団干しをこまめに行いましょう。一方で秋にはセイタカアワダチソウ(アキノキリンソウ)、ブタクサ、ヨモギなどのキク科雑草やススキ、シバなどのイネ科雑草、場合によってはスギの花粉が飛散しますが、鼻炎、結膜炎症状に加えて顔面にも痒みが出現することがありますので留意ください
アトピー性皮膚炎 冬の対策
冬は寒気と乾燥に注意が必要です。保湿剤や加湿器なども利用しながら保湿に留意しましょう。入浴ですが浴槽にゆっくりつかると皮膚角層の水分量が増える、という報告があります。また体の芯が温まると適度な発汗が促され、汗の保湿成分(乳酸や尿素など)により肌の潤いも期待されます。なおナイロンタオル等でのゴシゴシ洗いは悪化要因となります。外用剤は入浴後15分以内に塗るのが理想的とされ、軟膏タイプが保湿効果に優れます。なお乳幼児は寒冷により湿疹が悪化することがありますので、そのような場合にはステロイドやタクロリムス軟膏をしっかり外用しましょう。
衣服について。ヒートテック等の吸湿発熱素材肌着、ニットや裏起毛は皮膚の乾燥と知覚過敏を誘発することがありますので肌触りのよい綿の肌着が基本となります。また冬場の低水温では洗濯の際、衣類の繊維間に洗剤や柔軟剤などの成分が微量残留する可能性があり、皮膚の刺激となり得るので留意ください。
2月以降はスギやヒノキの花粉が飛散します。花粉によってまぶた等に湿疹ができる花粉皮膚炎にご注意ください。予防には保湿と帰宅時の洗顔、治療にはタクロリムス軟膏や眼科用ステロイドが有効です。